社会人のマナーとして、身に着けておきたいことのひとつが、敬語です。
しかし、敬語を使い慣れていなかったり、実は間違えて使っていた、ということも多いのではないでしょうか。
社会人として敬語をきちんと使えることは、初対面のお客様や目上の人に対して、自分への信頼を得たり、良い関係を築いたりするためにも重要なことです。
敬語を正しく使えるために、敬語の種類やルールといった基礎的なことから、ビジネスで使われる敬語の一覧表や間違えやすい敬語について、詳しく解説しています。
また、ビジネスシーン別の文例もあり、そのまま使用できますので、参考にしてください。
敬語の基本:敬語は相手との人間関係を円滑に築くためのマナー
敬語は相手に敬意を示す言葉です。
ビジネスマナーとして敬語を使えることは、当たり前。
敬語を使わなければ、社会人としての常識がないと思われる、相手に不快感を与えるといったトラブルを招くこともあります。
しかし、敬語を上手く使いこなせれば、相手に好印象を与える、自信を持って会話ができる、会話が円滑に進むといったメリットも。
ビジネスにおける敬語の使い方は、種類やルールがあって少し難しいという面もありますが、使っていくうちにだんだんと馴れていきますよ。
敬語の種類
敬語には相手の行動や状態を高める言葉の「尊敬語」、相手を敬うために自分がへりくだって使う言葉「謙譲語」、ですやますをつけた言葉「丁寧語」の3つの種類があります。
尊敬語:相手の行動や状態を敬う言葉
尊敬語は相手が主体になる言葉に使う敬語です。
相手の動作や状態を敬うかたちとして、3つの動詞の形があります。
①「お」や「ご」をつけたもの (例)お話になる
②「召し上がる」「おっしゃる」という特別な形
③「られる」をつけたもの (例)待たれる
謙譲語と混同しやすいですが、ポイントは相手が主語になる状態に敬意を表すことです。
謙譲語:自分がへりくだって使う言葉
謙譲語は自分が主語となる言葉です。
自分が相手よりも下に置くことで尊敬の意を表します。
- 食べる→頂く
- 見る→拝見する
- 会う→お目にかかる
というような、それぞれ独自の言葉で表現されます。
難しく感じやすいですが、使ってみたり、文章を書いてみたりすることで、徐々に理解できます。
丁寧語:ですやますを付けた丁寧な言葉
丁寧語は「です」や「ます」「ございます」を付けた言葉になります。
動詞に「ます」を付けて、「言います」や「会います」、「お」や「ご」を名詞につけた、「お料理」や「ご飲食」なども丁寧語になります。
丁寧語は普段の生活でも使用される機会が多いため、使いやすい敬語ですね。
ですが、ビジネスでは「尊敬語」「謙譲語」といった敬語を中心に使用することがほとんど。
「丁寧語」は目上の人やお客様に対して、失礼に当たることもあります。
そのため、しっかりと「尊敬語」「謙譲語」の違いを理解して、使い分けができるようにしましょう。
敬語のルール
日本のビジネスにおける敬語では、お客様や社外の人と区別をして、自分が勤める会社である社内を、「身内」として捉える慣習が影響しています。
つまり、社内やお客様に対しては、社内の身内には敬語を使わないといったルールがあります。
社内なのか、社外やお客様との会話なのかを、しっかり区別しましょう。
社外では上司であっても呼び捨てし敬語を使わない
身内である「社内」の上司や社長を、お客様や社外の人と話す場面では、敬語を使わず、呼び捨てにします。
敬意を示すのは、社外の人やお客様です。
例えば、電話で上司へ連絡があった場合は「部長の田中はただいま不在でして」というように、「田中部長」や「田中さん」という敬称はつけません。
「部長の田中が電話をされます」といった敬語も使わず、正しくは「電話をいたします」や、「電話を差し上げます」といった表現になります。
また、自分のことは「僕」や「自分」ではなく、「わたくし」「わたくしども」。
自分の会社のことは「弊社」「当社」と呼びます。
社内では上司や先輩は敬語、同僚は丁寧語
社内の中では、上司や先輩に対して敬語を使います。
同僚に対しては丁寧語を使いましょう。
上司や先輩を呼ぶときは役職があれば「田中部長」や「鈴木課長」、または役職がなければ「山田さん」とさん付けするとよいですね。
社外やお客様にはどんな場合も敬語を使う
社外の人やお客様と話す時、または話題にする時、いずれの場合も敬語を使います。
社外の人と、お客様のことを話題にするという場面では、「顧客の山田様が大変満足だとおしゃられていました。」というように、敬称も付けます。
また、相手の会社は「御社」「貴社」と呼び、自社に使われる呼び方と間違えないようにしましょう。
ビジネスでよく使われる敬語の一覧表
ビジネスでよく使用される、動詞の敬語をまとめて一覧表にしました。
主語が誰なのかを考えると、尊敬語なのか謙譲語なのかが理解しやすいですよ。
尊敬語 | 謙譲語 | 丁寧語 | |
行為の主体となる人 | 相手 | 自分 | 問わない |
言う | おっしゃる | 申し上げる | 言います |
見る | ご覧になる | 拝見する | 見ます |
聞く | お聞きになる | お聞きする | 聞きます |
行く | いらっしゃる | 参る・伺う | 行きます |
会う | お会いになる | お目にかかる | 会います |
知る | ご存じ お知りになる |
存じ上げる 承知する |
知っています |
来る | いらっしゃる お見えになる お越しになる おいでになる |
参る 伺う |
来ます |
読む | お読みになる | 拝読する | 読みます |
あげる | 賜る
くださる |
差し上げる | あげます |
受け取る | お受け取りになる お納めになる |
頂戴する 拝受する賜る |
受け取ります |
食べる | 召し上がる お食べになる |
いただく 頂戴する |
食べます |
いる | いらっしゃる | おる | います |
する | なさる される |
いたす させていただく |
します |
【例文付き】ビジネスシーンでの敬語の使い方
会社ではあらゆる場面で、敬語を使うことがあります。
こちらでは主なビジネスシーンに応じて、使用する敬語を取り扱っています。
事例付きなので、そのまま使用可能です。
社内や社外で挨拶をする
挨拶は、ビジネスマナーにおける基本です。
はっきりとした声で、挨拶しましょう。
社内で使う挨拶は、午前の出社は「おはようございます」、午後からの出社は「お疲れ様です」が一般的。
会社によって決まった挨拶がある場合は、その言葉に合わせます。
退社は「お先に失礼いたします」「お疲れ様でした」
お客様や社外への訪問は「いつもお世話になっております」、「(会う機会が空いてしまったら)ご無沙汰しております。」
退出する時は「失礼いたしました」と言いましょう。
謝罪をする
「すみません」と使ってしまいそうになりますが、正しくは「(大変)申し訳ございません」「申し訳ありません」です。
相手へ誠意が伝わるよう、深く頭を下げて言いましょう。
謝罪の言葉である「ごめんなさい」は、ビジネスにおいては不適切です。
「御免」は容赦するや許すを意味しており、「なさい」は「しなさい」という表現で、目上の人に対しては避けた方がよいでしょう。
提案や意見に同意する
相手の提案や意見に従うときに使います。
「分かりました」ではなく、お客様であれば「かしこまりました」や、上司であれば「承知しました」と使いましょう。
納得するという敬語では、「おっしゃるとおりです」が適しています。
「なるほどですね」という言葉は、丁寧語のように聞こえますが、敬語ではありません。
相手の言うことがそうだと、評価を下しているというニュアンスがあり、目上の人には失礼にあたります。
やり方を教えてもらう
分からないことを上司に教えてもらう時に使います。
教えてくださいではなく、「ご教示ください」で、読み方は「ごきょうじ」です。
または「ご教授(ごきょうじゅ)ください」を使いますが、こちらは、ある一定期間に渡って教えを授けてください、という意味があります。
言いにくいことを和らげるクッション言葉
クッション言葉とは、伝えにくいことを言う時に添える言葉を指します。
例えば、相手にお願いをする、断る時などの言葉の前に、一言添えると相手が受け入れやすくなります。
よく使うフレーズで、転用もできますので、そのまま覚えておくとよいですね。
【依頼をする時】
- お手数ですが、
- 恐れ入りますが
- ご足労おかけいたしますが
- お忙しいところ申し訳ありませんが
【断る時】
- あいにくですが
- 残念ですが
電話の応対
電話の対応は顔が見えない分緊張しますが、落ち着いて対応しましょう。
「お電話ありがとうございます。会社名の〇〇が承ります。」
必ず名乗ってから、相手の要件を聞きましょう。
「(出るのが遅れた時は)大変お待たせしました。」
電話は3コールまでというルールもありますが、なるべく早めに電話に出るようにします。
相手を待たせる時
訪問されたお客様や、社外の方を待たせる時に使う言葉です。
「恐れ入りますが、少々お待ちいただけますでしょうか?」
相手の名前がわからない時は「名前をお伺いしてもよいでしょうか?」と聞きましょう。
ビジネスメールの文例
プライベートで使うメールと違って、ビジネスメールには決まりがあります。
署名や挨拶を入れるなど、基本的なルールを理解しましょう。
次に例文を提示していますので、書くべきポイントをしっかり押さえてください。
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件名:商品に関するお問い合わせの回答 →件名は簡潔に書く
宛名:株式会社A 部署名 B様 →相手の会社名と部署名と氏名を書く
挨拶:いつもお世話になっております。 →挨拶を添える
名乗る:C会社のDです。 →自分の会社名と名前を入れる
本文:先日お問い合わせ頂きました、Fという商品に関する問い合わせについて回答いたします。
結びの挨拶:今後とも何卒よろしくお願いいたします。 →必ず挨拶で終える
署名:株式会社C 部署名 名前D →最後は自分の会社名と部署名・名前を必ず書く
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間違えて使っている敬語
ビジネスで間違いやすい敬語は以下のようになります。
- 「尊敬語」と「謙譲語」を混同して使っている
(例)相手の行為に謙譲語を使う どちらにいたしますかの「いたす」は謙譲語
- 二重敬語である
- 敬語ではない言葉を使っている
自分がいずれかに当てはまっていないかどうか、見てみましょう。
「ほう」や「かたち」や「になります」といった表現
お店で買い物をする時や、飲食店で食事をする時によく耳にするのが「ほう」「かたち」「になります」といった言葉です。
「こちらのほうでよろしいでしょうか?」「こちらでお預かりするかたちになります」といった言葉は丁寧な言葉に聞こえますが、敬語ではありません。
正しくは「こちらでよろしいでしょうか?」「こちらでお預かりします」。
知らずに使っていたと思い当たる方は、すぐに改善しましょう。
敬語が重複する二重敬語
二重敬語とは、敬語を重複して使うことです。
例えば「先生がお見えになられた」のような「お〜なる・お〜れる」という形で、「お」と「られる」という敬語が重複しています。
正しくは「先生がお見えになった」です。
他にも、「ありがたく頂戴させて頂きます」というように、「頂戴」と「させて頂く」が重複した形も間違いです。
正しくは「ありがたく頂戴します」。
どちらの表現も日常で使われているため、正しい敬語だと思っている方が多いのではないでしょうか。
丁寧な表現なので、間違えて使ってもよいのではと思うでしょうが、マナー知らずと誤解をされることもありますので、正しく理解しましょう。
【注意すべき】目上の人に使ってはいけない敬語
敬語のように使っていた言葉が、実は不敬だったということがあります。
知らなかったでは済まない、目上の人や上司に使うと失礼になる敬語を紹介します。
失礼になる言葉 | 正しい敬語 | 解説 |
ご苦労様です お世話様です |
お疲れ様です | 部下や年下の人の労をねぎらう時に使う言葉 |
了解しました | 承知しました かしこまりました |
「了解」は部下に許可を与えるを意味するため |
しばらくぶりです | ご無沙汰しております | 「しばらくぶり」は部下や友人に使う言葉 |
ご一緒します | お供させて頂きます ご案内させて頂きます |
「一緒」とは相手と対等であることを表すため |
参考になりました | 勉強になりました | 「参考にする」の意が判断材料の一つにするということで失礼にあたる |
お座りください | おかけください | ペットの「お座り」をイメージさせるため |
お分かりいただけたでしょうか | ご理解いただけたでしょうか | 相手が理解できたかを確認するもので、対等な関係を意味する |
どうしますか | いかがいたしますか | 「どう」が砕けた言い方のため |
お暇な時でも | お手すきの際は | 相手に暇があるといった表現になるため |
上記以外でも、「なるほどですね」や謝罪するときの「すみません」なども、失礼になる言葉ですので、一覧表で再度確認しましょう。
敬語を学べるおすすめ本5選
敬語をもっと詳しく勉強したい、さまざまなビジネスシーンで使える敬語を知りたいという方に、おすすめの本を5冊紹介します。
読書の習慣がない方にも読みやすい、イラストやカラーが多い本を参考にしていますので、安心して手に取っていただけますよ。
敬語の使い方が面白いほど身につく本 著:合田敏夫
著者は元NHKアナウンサーでもあり、現在、一般社団法人NHK放送研修センター、日本語センター部長を務めるなどの実績を持つ、言葉のスペシャリスト。
敬語の基本に加え、敬語を使って自分や自社の品格を上げること、目上の人やお客様との円滑な関係をいかに築くかが、書かれています。
敬語のスペシャリストに近づくための本です。
電話対応&敬語・話し方のビジネスマナー 著:尾形圭子
敬語を中心とした、ビジネスマナーをわかりやすく書いた本です。
かわいいイラスト付きのカラーページが、すらすらと読みやすくなっています。
ビジネスで最も苦手とされている電話対応を、電話を受けることからトラブル解決法まで、丁寧に書かれています。
電話での敬語を使った対応に、抵抗を感じる方にはおすすめですよ。
大人の語彙力 敬語トレーニング100 著:本郷陽二
仕事の日常会話で使われる敬語を、クイズ形式で書かれているため、敬語のスキルをアップさせたい方には適しています。
問題とその答えが詳しく解説されているので、なぜ自分が間違えたのか理解することもできますね。
問題以外にも、仕事で日常的に使うフレーズが太字で書かれているので、そのまま使いやすい仕様になっています。
誰とでも仲良くなれる敬語の使い方 著:松岡友子
理解しにくい敬語を、表やカラーの装飾でわかりやすく解説しています。
敬語のルールや間違いやすい敬語など、基本を学べる内容です。
さらに各章を「あいさつ」「メール・書き言葉」「訪問」といったシーンで分けられているので、こんな時はどうしたらよいかを解決できる本です。
敬語「そのまま使える」ハンドブック 著:鹿島しのぶ
文庫本サイズの、手軽に持ち運べるハンドブックです。
仕事で使われる、敬語の言い回しが書かれているため、辞書のように使用できます。
この本の中の「習うより慣れろ、慣れるより真似よ」というように、決まった形の敬語が中心なので、難しい敬語に苦手を感じる方に最適ですね。
まとめ:社会人としてビジネス敬語を身につけよう
社会人のマナーとして、敬語を使えることは当たり前です。
敬語は相手に尊敬の意を示すため、人間関係を円滑にする役割があります。
主に、ビジネスで使う「尊敬語」と「謙譲語」を正しく使い分けること、よく使う敬語の一覧表で、何度も確認するなどして覚えましょう。
また、目上の人やお客様に失礼のないよう、間違った敬語を使わないように、注意することも必要ですね。
敬語を正しく使えるよう、日頃から意識して練習しましょう。