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法務の仕事はなくなる?AIの影響はどの程度あるのか

法務の仕事はなくなる?AIの影響はどの程度あるのか

企業の中で、総務、人事などと並び、企業が関与するすべての法律的な業務を担当する「法務」という役割があります。

法務では、企業活動が法令や契約と整合性をもって適正に行われ、企業が健全な発展を遂げることができるように、企業全体をサポートすることが役割とされます。

そんな法務ですが、AIの進化・発達によって、仕事はなくなるのでしょうか。

今回はそんなAIと法務について解説していきます。

 

法務の仕事について

法務の仕事にはどのようなものがあるでしょうか。

具体的には、企業が生業とするサービスに関連した「利用規約」の立案、利用申込書の作成、サービス利用者に対する「プライバシーポリシー」の設定、個人情報の取り扱いに関する設定等が挙げられます。

他に、自社が利用する他社サービスの利用規約や、プライバシーポリシーを含め、個人情報の取り扱いに関する記載を確認し、自社に不利な内容が記載されていないかを確認します。

自社に不利な内容が確認された場合、別途、利用規約の変更覚書の締結を打診し、先方と調整を行い、覚書を締結します。

また、株式上場を想定している企業の場合、取引先の確認も法務が行います。

政府指針「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」において、暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要です。

反社会的勢力に該当しないか、反社会的勢力との関係を有しないか、を都度確認をする必要があり、企業内では、法務が取引先審査にも対応しています。

取引開始前に、企業に対しての反社チェック、および自社の採用時にも個人の反社チェックを行います。

取引前に締結する利用申込書、利用規約に反社会的勢力排除の条項がない場合、別途「反社会的勢力の排除に関する覚書」を締結します。海外の取引先も同様です。

 

紙から電子への法務業務の変化

上記のような法務業務で、実際に行われる契約書の締結では、既に紙以外の契約書締結が多く実施されています。

「クラウドサイン」「DocuSign」といった電子調印サービスを利用することが多く、特に海外との契約締結時には欠かすことのできないサービスです。

企業法務で欠かせないのは、案件管理です。

以前従事していた株式上場前のIT企業では、法務案件が月に80件ほど発生していましたが、依頼案件の進捗管理が一覧化されていませんでした。

私が従事し、即日グーグルスプレッドシートで一覧化しましたが、案件管理ツールの導入について検討するよう指示がありました。

ツール導入の目的は、「法務部以外の依頼者から、法務依頼一覧が一読できること」で、低コストのツールであることも条件でした。

導入を検討したサービスは「Hubble(ハブル)」「ContractS CLM」でした。どちらも、法務案件管理ツールで、契約書の文書PDF保管の管理も可能です。

1カ月の試用期間があり、導入した場合の業務効率化、コストパフォーマンスをシミュレーションしました。

契約書の文書PDFの管理は、クラウドサイン等の電子契約サービスでも既に実施されています。

本件では、案件管理を、管理的に社内で一読できることが主な目的とされました。

案件データを依頼者が入力し、案件管理は一覧化され、審査対象の契約書はツール上で修正箇所が視覚化されるので、一見、便利なツールに思えました。

実際に試用を継続してみると、結局一覧化するのは入力者と法務担当であり、無料のグーグルスプレッドシート入力管理より優位な部分が見当たらないという結果でした。

契約審査AIを使用しない現段階においては、月額5-10万円を超えるほどの機能は、未だ搭載されていないという結論に達し、導入は見送られました。

法務案件管理ツール導入見送りには、やはり「法務審査AIツール」の導入が、管理ツールより優先されるべきである、という上層部の考え方が大きく反映されていたように思います。

案件管理を主に必要とするレベルでは、有料ツール導入はコストパフォーマンスが低いと思えました。

前職では、CMでも著名になった「LegalForce(リーガルフォース)」を導入するタイミングを図っていましたが、契約審査のAI化は、導入検討当時、まだ様子をみようということになりました。

契約審査のAI化には、自社でAIを育成していく過程が必須です。

自社の契約条件は、都度交渉している案件が多数のため、契約に関する諸条件を、企業内でまとめられていないことが多々あります。

各企業との条件が多岐に渡り、契約条件の一定化ができていないため、AIに自社の契約条件を入力していくことが出来ないことが、契約審査AIツール導入を遅らせている一因となっています。

 

法務はAIにより仕事がなくなるのか

企業法務もAIに業務を譲ってしまうことが懸念されますが、弁護士資格を持たずに法務を担当する企業法務部員が、弁護士資格を持ち企業に所属する企業内弁護士(インハウスローヤー)に業務を譲ることになってしまっている場面の方が、先に到来しそうです。

弁護士資格を保有しない大多数の企業法務部員の、企業法務の仕事がなくなる将来が近いということです。

企業法務の主な業務については前述しましたが、株式上場後の企業では、株主総会対応における役割も、重要な企業法務の役割です。株主総会対応をする法務は、企業法務とは別途「商事法務」と呼ばれています。

目的は、株主総会を適法に行い、会社の混乱を防ぐこと、株主からの質問に対して会社が説得力のある回答をし、株主からの会社の信頼を高めることが主な目的です。

これらの役割は、弁護士資格保有者よりも、上場企業で経験を積み、業務経験を重ねている商事法務経験者は重宝される場面もあります。

弁護士資格を保有しなくても、自社の諸事情を把握し、商事法務に特化することは、弁護士資格保有者が入社した後も、契約審査AIツールを導入した後も、法務担当者は自身のポジションを保持する道が開けるのではと考えられます。

商事法務では、株主との契約書締結、株主総会の運営関連でAIツール導入により業務効率化を図ることができる場面が想定されますが、契約書面対応以外の業務が多岐に渡るため、まだAIに替わる場面は少ないように思います。

確かに、契約審査を中心に考えた場合、近い将来、企業法務の仕事がなくなる懸念は完全に払拭されないままですが、企業法務、商事法務どらちにおいても、自社の過去事例をAI化できる場合においては、契約審査AIツールを導入し、業務軽減が見込める場合も想定されます。

しかし、最終的には、契約当事者間の調整や、先方からの要望を加味し、社内調整を図るなど、AIツールだけでは企業法務、商事法務どちらも業務が完結できないというのが現在の企業の状況と思えます。

契約修正等は、ケースバイケースとはいえ、自社の条件把握は、企業法務にとっても大事なポイントとなります。

早期の段階から、自社事例をデータベース化しておくことも有意義といえます。

あくまでも補助的な意味合いでの契約審査AIツール導入は、多数の企業が実施していく予想がされますが、それ以前に、企業内弁護士が増えることにより、弁護士資格を保有していない企業法務部員の業務や、雇用自体がなくなることは、現実に多数発生しています。

雇用継続のためには、近々想定される、企業法務での契約審査AIツールの導入をスムーズに行うため、自社の過去事例をデータベース化することに、いち早く着手することが、法務の仕事はなくならないポイントのひとつかもれません。

 

まとめ:法務業務を完全にAI化するのは難しい

ここまで、AIによって法務の仕事がなくなるのかについてまとめてきました。

確かにAIやITの進化により、法務系のサービスも多く開発され、利用が始まっているのは事実です。

そのために、人間の目や毛で行う作業が少しずつ減り、効率化が図られています。

しかし、完全にAIやITが代替するのは不可能で、作業以外の部分、いわゆる専門知識を持った人間の頭脳を代替できるまでには至っていません。

作業的な部分だけしかできない人間は代替される可能性は高いですが、専門性を高めれば、機械でも代替できない存在になれるでしょう。

 

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