新コロナウイルス感染拡大に伴い、テレワークという働き方が一気に広まりました。
ここでは、中小企業において18年の経理経験がある筆者が、実際のテレワーク経験をもとに、経理業務におけるテレワークについて考えてみました。
テレワーク可能な経理業務とは
経理業務は他の職種と比べ、テレワークとの相性が相対的に高い方ではないかと思います。
なぜなら、経理業務は情報を扱う仕事が多くを占めますので、物理的な制約が少ないと考えられるためです。
ただし、実際は会社によって事情が異なります。
それは、合理化をどれだけ進めているか、または合理化に対して柔軟な考え方ができるかという点が会社によって違うためです。
そして、まさにこの「合理化」が、テレワーク実現の必要条件になります。
合理化がある程度進んでいる会社の場合、以下のような経理業務についてはテレワークが可能と考えられます。
・銀行振込や入金・残高確認(ネットバンキング)
・手形の発行・受取(でんさい)
・会計伝票作成(会計システム)
・税務申告・納税(e-Tax、eLTAX、ペイジー)
・各種社内承認手続き(承認フローシステム、電子印)
・請求書・領収書等の取り扱い(電子帳簿保存法対応の文書保存システム)
・経費精算(キャッシュレス、法人カード、経費精算システム)
その他、経理以外の職種にも共通するテレワーク可能な業務としては、例えば以下のような仕事が考えられます。
・会議資料作成・配布(ペーパーレス)
・会議出席・社内外打合せ(ZoomやTeams等のオンラインツール)
・スケジュール共有(Googleカレンダー等のスケジュール管理ソフト)
テレワークが難しい経理業務とは
一方、テレワークでは対応が難しい経理業務としては、以下のような仕事が考えられます。
特に、取引先など社外関係者が関わるような仕事や、メーカー経理で工場勤務の場合は、完全にテレワークにするのは難しいケースがあるかもしれません。
・現金の出し入れ(会社名義の香典、突然の代引き対応など)
・一部のネットバンキング手続き(ワンタイムパスワード機器の社外持ち出し禁止の場合)
・紙の手形管理(電子手形に対応していない取引先がある場合)
・紙の請求書・領収書の取り扱い(紙でしか発行されない場合)
・棚卸立会(実地棚卸の立会作業のこと)
・固定資産の実査(固定資産台帳と現物資産との照合のこと)
・税務調査対応(調査側にもよりますが、従来の調査方法の場合)
経理テレワークのメリット
テレワークで実際に経理業務をおこなってみて感じたメリットは以下の通りです。
・通勤時間がなくなり、生活にその分ゆとりができる
・誰にも話しかけられないので集中しやすい
・自宅なのでリラックスできる(自宅の場合)
・周りを気にすることなく声出し確認(数字の読み上げ等)ができる
・PCだけの環境なので、ペーパーレスや電子化を必然的に意識するようになる
経理テレワークのデメリット
一方、テレワークをやってみて感じたデメリットは以下の通りです。
・口頭だとすぐ終わる用件でも、チャット等のオンラインツールを使う必要がある。
・自宅の場合、リラックスできる反面、緊張感が維持しにくい
・マイペースで進められる分、休憩時間等の区切りが曖昧になりがち
・出社していれば周囲から入ってきたはずの情報が入ってこない(オフィス内の会話等)
・原則書類を持ち帰れず、PC画面だけでのチェック作業等は効率が落ちる場合がある
・オンラインミーティングだとどうしても相手との距離を感じる(これは個人差あり)
経理のテレワーク促進に向けての課題
テレワークという働き方が広まり、そのメリットを多くの人が認識した以上は、今後もテレワークという働き方は残る、あるいはさらに広まっていくと考えられます。
そこで、特に経理業務において、今後テレワークを促進していくにあたって課題となりそうな点を、以下の通り挙げてみました。
・テレワークに必要な社内環境の整備(ノートPCの支給、VPN接続、WEB会議導入)
・経理パーソンのITリテラシーの向上(ITの積極的活用を厭わない)
・社内に対する提案力(ペーパーレス化等、他部署を巻き込む力)
・取引先に対する交渉力(各種電子化等を粘り強く交渉して実現させる力)
・情報セキュリティに対する体制整備(テレワークに伴う情報漏洩の防止体制)
まとめ:経理のテレワークは少しずつ進んでいる
ここまで経理業務におけるテレワークについて考えてみました。
冒頭に申し上げた通り、会社によって事情は異なりますので、全ての会社に当てはまるわけではありませんが、ご同意いただける経理パーソンの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
経理業務はテレワークとの相性が良いと個人的には考えており、もしテレワークに積極的ではない会社に勤めていたとしても、経理パーソンは積極的にテレワーク実現のために動いて、率先してテレワークを導入すべきだと思います。
ただ誤解してほしくないのですが、今回挙げたようにテレワークにはメリットだけではなくデメリットもあり、いわゆる完全フルリモートが全ての会社にとっての理想とは考えていません。
実際に、筆者もテレワークは限定的にしか行っていませんし、業種的にそもそもテレワーク自体が難しいという方もいらっしゃると思います。
テレワークはあくまで働き方の選択肢というだけで、手段の1つに過ぎません。
手段を目的化すると本末転倒になるので、その点は注意する必要があります。
実際は、それぞれの経理パーソンが自社の経理業務における生産性向上やリスク管理、人材定着などの様々な観点から総合的に判断し、バランスをとっていくことが求められます。
それでも敢えてテレワークをまず導入してみるべきだと思うのは、実際にやってみないと分からないことが多いためです。
その他にも、テレワークをしてみることで、従来会社でおこなってきた自分のやり方を見直す機会も生まれます。
つまり、テレワークをすることで、「会社における経理業務の生産性」向上にもつながるのです。
近い将来、あらゆる会社がテレワークを柔軟に取り入れるようになる可能性もあると思いますが、その中でも特に経理業務におけるテレワークの活用は必然になると予想しています。