縁あって入社した会社でも、さらなるスキルアップを求めて途中で会社を離れたり、また定年を迎えたりといった要因で「退職」することは少なくありません。
退職する際には、社会保険や会社との契約においてさまざまな手続きを行う必要があります。
本記事では、退職する際に必要な手続きや退職日までの主なスケジュールなど、退職を検討している人にとって有益な情報を解説していきます。
また、退職の手続き対応を実際に行う人事・労務担当者にとっても役立つ情報を紹介していきますので、ぜひ日々の業務にお役立てください。
退職の種類
まずは、手続きに入る前に、退職の種類を整理します。
実は、この退職の事由によって手続きが異なります。
重ねて、望まない退職の場合においては、社員は感情的なシコリを抱えた状態でもありますので、より慎重な対応が必要となります。
・定年退職:会社が定めた定年に達した退職
・依願退職:社員からの申し出に基づいた退職。自己都合退職とも言われる
・死亡退職:社員が在職中に亡くなってしまったことによる退職
・契約満了退職:有期契約社員の場合には、その契約期間が満了を迎えたことによる退職
・会社都合退職:何らかの事情により、会社側から退職を申し出たもの
・普通解雇:社員の何らかの問題行動や不祥事により解雇をするもの
・懲戒解雇:より悪質な内容で解雇をするもの
・整理解雇:会社が、事業存続が出来ない等、会社側の都合で解雇をするもの
一番多い退職は、依願退職
数ある退職の種類のなかでも、一般的には、「社員からの申し出による退職(依願退職)」ということが多いかと思います。
この依願退職に際して、社員から「退職願」が提出されます。
ただ、この退職の申し出があった場合は、そのまま受けてすぐに手続きに入ることは少ないです。
まずは退職に至った背景や理由を社員本人へ確認し、可能なのであれば、退職の意思を思い留めるように対応することが先決です。
貴重な戦力である社員が辞めるとなると、さまざまな形で影響が出るおそれがあります。
思いあっての退職の意思表明だと思いますが、会社のためにもまずは最大限引きとめるように努めてください。
引きとめることなく、退職願を出したら即受領されたとなると、退職者から見ても「私は、会社にとってそんなに必要な人材ではなかったんだ」という余計にネガティブな反応になってしまいます。
その点でも、社員へできる限りの誠意を尽くす意味で、引き留め行為を行うようにしてください。
ただ、引き留め行為の程度については、要注意です。
あくまで、ハラスメントにあたるような行為は厳禁です。
行き過ぎた対応にならないように、十分注意してください。
退職日までの一般的なスケジュール
退職と一口に言ってもさまざまな種類がありますが、ここでは社員本人の希望によって行う依願退職を例に挙げて、退職日までの一般的なスケジュールを解説していきます。
退職日の2~3カ月前
民法第627条第1項では、退職の申し出は退職日の2週間前までにするという法律が定められています。
しかし、退職するまでの引継ぎや後任探しを考慮すると、退職日の2~3カ月前ぐらいに退職の意思表示をするのが望ましいでしょう。
なお、就業規則に依願退職の場合の申し出期限について記載がある場合もあるため、あらかじめ社内のルールを確認するのがおすすめです。
退職の意思表示は、まずは直属の上司へ伝えるのが一般的です。
直属の上司へ報告する前に、人事部や部署のトップへ伝えることがないよう注意してください。
退職したい時期が決まったら、直属の上司へ「大事なお話があるのですが、お時間いただけますと幸いです。」などと伝えて直接話す機会をもらってください。
そして、退職の意思があること、退職の理由や引継ぎをしっかりすることを伝えましょう。
退職1カ月前~
退職の意思を伝えた後は、退職日の1カ月前まで、遅くとも2週間前までに退職願を提出しましょう。
退職願は、会社に対して退職の意思を伝える正式な文書です。
退職希望日や退職の理由、提出日などを記載し、封筒に入れて渡しましょう。
退職願が受理された後は、所定の退職届に記入して提出します。
そして、退職後も滞りがないよう、担当業務の引継ぎや後任探しを早速始めます。
後任の担当者が業務に困らないために、また誰が業務の引継ぎをすることになっても問題を起こさないために、仕事の進め方や進捗状況、担当顧客の情報を詳細に資料へまとめるのがおすすめです。
退職するとは言え、これまでお世話になった会社です。
会社への誠意や感謝の気持ちを伝えるつもりで、誰が読んでもわかりやすい資料づくりを意識してください。
また、退職1カ月前にもなると、会社の各種制度や社会保険などに関する手続きの説明が人事・労務担当者から行われるようになります。
退職日までに必要な手続きや書類をしっかり理解したうえで、納期を守って提出するようにしましょう。
退職1~2週間前
退職日の1~2週間前には、自分が担当していた取引先や顧客へ訪問して、挨拶まわりを行うことが多いです。
しかし、会社によっては「退職すること」を伝えず、あくまで「部署異動」ということにしてほしいというケースもあります。
まずは直属の上司へ、退職することを伝えて挨拶まわりをしたほうが良いかを聞いたうえで、会社の判断に従うようにしてください。
また、挨拶まわりを行う際には、たとえ聞かれたとしても退職理由は「家庭の都合」などと簡単に伝えるにとどめるのが良いでしょう。
後任の担当者が決まっている場合は、その社員と一緒に挨拶まわりを行い、取引先や顧客の前では顔を立ててあげるようにしましょう。
退職日当日
退職日当日には、これまでお世話になった部署やチームなど、社内の関係者へ挨拶を行います。
また、会社から貸与されていた備品や社員証を返却することも、忘れずに行いましょう。
意外と忘れがちなのが、雇用保険被保険者証や年金手帳の返却です。
これらは会社側が保管していることもありますので、退職日当日までに自分の手元にあるかどうかを確認してください。
退職手続きについて(退職者本人の対応)
実際に、退職が決まったうえで行う手続きを説明していきます。
引継
実は、非常に大事なことは、「自分が辞めた後でも業務が円滑に行える環境を整えること」です。
退職日が確定したなかでは、その日に向けてどのように引継を行っていくのかを計画し、進めていくことが必要です。
また、できるだけ後任者への口頭説明だけではなく、作業マニュアルなど業務を進めるうえでの資産を残してもらうようにしてください。
返却物
会社が貸与しているものを返却してもらいます。
代表的には、以下のようなものがあります。
・PC、スマートフォン、タブレット等のIT機器
・入館証、社員証
・名刺
・健康保険証
※退職に際して、その会社から健康保険の喪失手続きが発生します。
喪失手続きについては、申請書に加え、退職者の健康保険証提出が求められます(この場合の保険証については、扶養者分も含みます)。
その他、会社で社外秘扱いにしているような書類等も該当します。
誓約書
退職に際し、在職中に知り得た情報を悪用しないといった点で誓約書を取り交すことが多くあります。
法的にどこまで適用できるかという問題はあるのですが、一定程度の抑止力にもなりますので、会社側で必要な場合には準備ください。
退職手続きについて(会社側で行うこと)
退職者が発生した際に、会社側で行う対応について、以下整理していきます。
退職金計算
会社のルールに基づき、退職金を計算し、支給します。
支給対象外(例:在職3年未満は不支給、等)に該当する場合には、この限りではありません。
また、退職金支給に際しては、住民税を一括で支払う対応も可能です。
退職月が1月~5月の場合には、残りの期間の住民税を退職金から一括で支給するという流れを取るケースもあります。
もちろん、退職者の選択によるものですので、内容を説明のうえ、適切な対応を図るようにしてください。
退職源泉発行
退職金は、通常の所得税とは異なる計算を行います。
それがゆえに、退職金だけでの源泉徴収票を発行します。
社会保険手続き
退職者の喪失手続きを行います。
具体的には、以下になります。
健康保険喪失手続き
上記で説明した保険証を添えて、健康保険組合に提出します。
厚生年金保険喪失手続き
最近では電子申請(e-Gov等)で行うことが一般的ではありますが、退職者の情報を入力のうえ申請を行います。
雇用保険喪失手続き
ハローワークに退職日の翌日から10日以内に行います。
その際、申請事由に対して離職理由を記載する欄があります。離職理由については、適正な理由でないと、離職票の発行がなされません。
申請する離職理由については、退職者に予め説明のうえ、合意書をとりつけておくことが望ましいです。
また、契約社員で終了する場合には、契約書を、定年退職の場合には、定年年齢が記載された就業規則の写しの添付が求められますので、退職事由に応じた対応が必要となります。
また、月末退職の場合には、退職月の給与から社会保険料を2ヶ月分徴収します。
社会保険徴収ルールに基づいた対応なのですが、理由を知らない退職者から「手取りが少ない」というクレームが最後に届かないように、事前に説明しておくことをおすすめします。
退職時に会社から本人に渡すもの
最後に、会社から本人に渡すもの(もしくは返却するもの)を整理します。
源泉徴収票
最後の報酬を支払ったうえで、それに伴う源泉徴収票を発行します。
退職日までに間に合わない場合には、作成され次第、別途自宅に郵送します。
新しい会社での年末調整、もしくは確定申告に必要となる書類になりますので、必ず発行のうえ送付ください。
離職票
次の会社が決まっている場合には、この限りではないケースがあるのですが、失業保険給付を受給する場合などでは、この離職票が必要となります。
雇用保険喪失手続きのうえで、発行されますので、退職者の御自宅に郵送するようにしてください。
退職証明書
会社により発行する/しないがあるかと思いますが、退職者からの請求に基づき、発行してください。
退職時に注意したいポイント
ここまで紹介した手続き以外にも、退職に際して気を付けるべきポイントがいくつか存在します。
・有休休暇を計画的に消化しておく
・退職した年の分の確定申告が必要なことも
・職場でお菓子配りをするタイミングを考える
それでは、これらの退職に際して気を付けたいポイントを解説していきます。
有休休暇を計画的に消化しておく
退職することを決めた後は、自分の有給休暇がどの程度残っているのかを確認しましょう。
そして、退職の意思を伝えるときに、同時に有給休暇を消化したいことを伝えるのがおすすめです。
有給休暇日数が多い場合は、周囲へ迷惑をかけすぎないように計画的に消化するのが良いです。
また、最終出勤日までは通常の勤務を行い、その翌日から退職日までを有給休暇とするケースも多いです。
会社やその時の業務の状況によってどの方法が一番良いのかは変わるため、一度直属の上司と話し合うようにしてください。
退職した年の分の確定申告が必要なことも
退職した年のうちにほかの会社へ転職する場合、転職前の分も含めて転職先で年末調整を受けられます。
しかし、そうでない場合には、退職した年の分の確定申告を自分で行う必要があります。
確定申告を行うと、払い過ぎている所得税がいくらか還付されます。
確定申告時には、会社から付与される源泉徴収票の記載事項が必要になるため、なくさずにとっておきましょう。
職場でお菓子配りをするタイミングを考える
退職時にはお菓子配りをする人は少なくありませんが、これは決して義務ではないです。
しかし、挨拶まわりと同時にお菓子を配れば、感謝の気持ちがより伝わるようになるかもしれません。
午前中の忙しい時期はなるべく避けて、昼休みや就業前の比較的余裕がある時間帯に配るのがおすすめです。
また、そのときに直接お菓子を渡せなかった場合は、机の上にお菓子とともに一言メモ書きを添えておくと好印象です。
個包装で保存期間が長く、常温保存が可能なお菓子を選ぶのが良いでしょう。
マカロンやクッキー、マドレーヌやチョコレートが、退職時のお菓子として選ばれることが多いです。
まとめ:できる限り、双方が円満退社できるように進めましょう
退職手続きについては、何らかお世話になった方々の最後でもありますので、気持ちよく送り出すように努めてください。
その際、できるだけ手続きについては、郵送対応等だけでなく、対面で説明をしてあげると、安心されます。
特に、次の会社が決まっていない場合等では、退職後の社会保険、特に健康保険については、最大の関心事項になります。
その際、会社は「任意継続」についての案内をしっかりしてあげることが必要となります。
任意継続については、引き続き最長2年間は、加入している健康保険組合を継続することが出来るのですが、加入は「退職日の翌日から20日以内」という非常に限られた中で手続きをする必要があります。
この期間は法律で定められた期間でもあるので、例外が認められません。
ましてや、「人事から知らされていなかった」というのも事由にはならないものです。
このように、最後の最後まで無用なトラブルが起こらないようにする意味でも、しっかりと対面で話をし、手続きを円滑に進めるように努めてください。