RPAの導入や活用にはいくつか課題が存在します。RPAの本当の価値を引き出すためには、導入時の課題を正しく理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。本記事では、RPA導入における5つの典型的な課題と、それを乗り越えるための6つの解決策について解説します。RPAの導入を検討中の方や、導入に苦戦されている方は、ぜひ参考にしてください。
RPAとは
RPAは、Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の略称で、人間が行うパソコン操作を、ソフトウェアロボットによって自動化する技術を指します。
RPAは主に以下のような特徴を持っています。
- ルールベースの定型業務に適している
- プログラミングの知識がなくても、シナリオを作成できる
- 既存のシステムを変更せずに、自動化を実現できる
- 24時間365日の稼働が可能
- 人的ミスを防ぎ、業務品質を向上できる
RPAのロボットは、あらかじめ定義されたシナリオに従って、画面操作やデータ入力などを行います。
RPAの対象となる業務は、以下のような特徴を持つものが適しています。
- 定型的で、ルール化されている
- 大量の処理が必要
- 複数のシステムにまたがる
- 人的判断を必要としない
例えば、請求書の発行、データ入力、レポート作成など、繰り返しの多い事務作業は、RPAによる自動化の効果が高いと言えるでしょう。
RPAの市場規模
近年、業務効率化や生産性向上を目的として、多くの企業がRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入に注目し、導入を進めている状況がうかがえます。
実際、ICT市場調査コンサルティングのMM総研による「RPA国内利用動向調査 2022」(2022年9月時点)の結果から、RPAの市場は拡大を進めていることがわかります。
調査結果からは、RPAの導入時期が早い企業ほど、その効果を実感し、より幅広い業務にRPAを適用していることが分かります。例えば、2017年以前にRPAを導入した企業では、導入当初の29%から現在は54%に増加しており、早期導入企業ほどRPAの活用が進んでいます。
▲グラフ:RPA国内利用動向調査 2022を元に筆者作成
ただし、RPAの導入率には企業の規模によって大きな格差が見られます。年商50億円以上の企業では導入率が45%に達しており、準備中・検討中の企業も約20%存在します。一方、年商50億円未満の企業では導入率が12%にとどまり、前回調査からわずか2ポイントの増加にとどまっています。このように、RPAの活用は企業の規模によって大きな差があり、特に年商50億円以上の企業での導入が進んでいるといえます。
また、自動化範囲を広げるためにAI-OCR(Optical Character Recognition)の導入が本格化しており、年商50億円以上の企業におけるAI-OCRの導入率は23%に達しています。特にRPAユーザーの導入率は44%と高く、RPAとAI-OCRを組み合わせることで、さらなる自動化が進んでいます。
▼AI-OCRについてはこちら
RPAの活用が進むことで、ビジネスプロセスの自動化が進展し、企業の生産性向上に寄与することが期待されています。AI-OCRやプロセスマイニングの導入も進んでおり、今後のビジネスプロセス自動化のさらなる進展が期待されます。
引用:RPA活用有無がビジネスプロセス自動化に格差を生む ≪ プレスリリース | 株式会社MM総研
RPA導入時によくある5つの課題
RPAは多くの企業で導入が進んでいるとはいえ、導入すれば必ず、すぐに効果が実感できるというものではありません。導入時には様々な課題に直面することがあり、うまく運用できずに苦戦するケースも少なくありません。ここからはRPA導入時によくある課題を確認していきましょう。
1. 自動化対象業務の選定の難しさ
RPA導入を検討する際、まず直面する課題が「どの業務を自動化すべきかわからない」という点です。
RPAは、ルールベースで定型的な業務に適していますが、実際の業務プロセスを見渡すと、自動化の対象として適切な業務を選定することは簡単なことではありません。
というのも、多くの企業では、業務プロセスが標準化されておらず、属人的な運用に依存しているケースが少なくありません。また、一見定型的な作業に見えても、実は例外処理が多く、自動化には向かない場合もあります。
RPAの特性を理解せずこういった業務を対象に、安易に自動化を進めてしまうと、かえって業務が複雑化して、効果が限定的になってしまうリスクがあるのです。
自動化対象業務の選定では、以下のような基準が参考になります。
- 業務のルール化、標準化ができる
- 例外処理が少ない
- 一定のボリュームがある
- 人的判断を要しない
- エラー率が低い
これらの基準に照らして、自動化の対象を慎重に選定することが求められます。場合によっては、RPA導入に先立って、業務プロセスの見直しや標準化に取り組む必要もあるでしょう。
2. 開発スキル不足とRPAエンジニア不足
RPAツールの中には、プログラミングの知識がなくても、比較的容易に自動化シナリオを作成できるものがあります。
しかし、RPAを本格的に運用するには、一定の開発スキルが必要になるケースもあります。
また、RPAシナリオの作成だけでなく、運用後のメンテナンスや改善にも専門的なスキルが求められます。業務プロセスの変更に合わせてシナリオを修正したり、エラー発生時に原因を特定して対処したりするには、RPAの専任者の存在が欠かせません。
RPA人材の不足は、導入プロジェクトの遅延や、運用後のトラブルに直結します。自動化の対象業務が選定できても、シナリオ作成が滞ってしまっては、本来の効果を発揮できません。また、エラーが頻発して業務が停止するようでは、かえって生産性を下げてしまいかねません。
RPAの開発スキル不足とエンジニア不足を解消するには、社内でのRPA人材育成プログラムの整備したり、RPAベンダーによる研修サービスや、構築委託サービス・サポートなどの活用など、自社の状況に合わせて最適な対策を選択することが求められます。
3. 社内への浸透の難しさ
RPAの導入効果を最大化するには、特定の部署や業務だけでなく、組織全体でRPAを活用する意識を醸成することが重要です。しかし、現場の従業員にRPAの価値を理解してもらい、積極的に活用してもらうことは容易ではありません。
RPAは、業務の自動化によって生産性の向上や工数の削減をもたらしますが、一方で、自分の仕事が奪われるのではないかという不安を従業員に与える可能性もあります。
また、RPAを活用するには、業務プロセスの見直しや、新しいワークフローへの適応が求められます。従来の仕事の進め方を変えることに抵抗を感じる従業員も少なくありません。
そのため、社内へのRPA浸透を進めるには、以下のようなポイントが重要です。
- 経営層からのRPA推進のメッセージ発信
- RPAの目的や効果を従業員に丁寧に説明
- RPA活用のためのトレーニングの実施
- RPAによる業務改善の成功事例の共有
- 現場の声を吸い上げ、RPAの改善に反映
トップダウンとボトムアップの両面から、RPAの浸透を図ることが求められます。RPAは、単なるツールの導入ではなく、働き方そのものの変革につながる取り組みです。組織全体で、RPAの価値を共有し、活用する文化を醸成することが非常に重要だと言えるでしょう。
4. セキュリティリスク
RPAは、業務システムやデータベースにアクセスして処理を自動化するため、セキュリティ面での十分な配慮が必要です。RPAツールに適切なアクセス権限を設定しないと、機密情報の漏洩や、不正アクセスのリスクが高まります。
特に、RPAシナリオの作成や運用を外部ベンダーに委託する場合、社内のセキュリティポリシーに沿った管理体制を敷くことが重要です。委託先のセキュリティ対策が不十分だと、情報漏洩のリスクが高まります。
RPAのセキュリティリスクを低減するには、以下のような対策が有効です。
- RPAツールへのアクセス権限の最小化
- RPAシナリオの変更管理プロセスの整備
- RPAの処理ログのモニタリングと分析
- セキュリティインシデント発生時の対応計画の策定
- 委託先のセキュリティ対策の確認と契約での担保
RPAのセキュリティ対策は、システム部門だけでなく、業務部門やリスク管理部門とも連携して進める必要があります。セキュリティを犠牲にしてRPAを進めることがないよう、十分な検討と対策が求められます。
5. トラブル発生による業務停止リスク
RPAは、人手による作業を自動化するため、トラブルが発生した際の影響が大きくなるリスクがあります。RPAシナリオのバグや、システム障害によって、業務が停止してしまうと、大きな損失につながりかねません。
特に、RPAを本番環境で稼働させる際は、十分なテストを行い、想定されるエラーへの対処方法を事前に準備しておく必要があります。しかし、RPAシナリオの品質管理やテストの工数が不足していると、本番環境で予期せぬトラブルが発生するリスクが高まります。
RPAのトラブルリスクを最小化するには、以下のような対策が重要です。
- RPAシナリオの十分なテストと品質管理
- 本番環境への移行前のユーザー受け入れテストの実施
- 運用時のRPAシナリオの動作監視と異常検知
- トラブル発生時の対応手順の明確化と訓練
- バックアップシナリオや代替手段の準備
RPAは、業務の自動化によって効率化を図るものですが、そのためには安定的な運用が不可欠です。トラブル発生のリスクを最小限に抑え、万一の際にも速やかに対処できる体制を整えることが求められます。
RPAの課題を乗り越えるための6つの解決策
1. 導入目的の明確化
RPAの導入を成功させるにはまず、導入の目的を明確にすることが重要です。RPAを導入する目的は、業務の効率化やコスト削減など、企業によって様々ですが、具体的な目標を設定し、関係者で共有することが求められます。
導入目的を明確にするには、以下のようなステップが有効です。
- 現状の業務プロセスの課題や改善点の洗い出し
- RPAによって達成したい目標の設定(定量的、定性的)
- 目標達成によるビジネスへのインパクトの見積もり
- 経営層を含む関係者への目的の共有と合意形成
例えば、RPAの導入目的を「業務の生産性を30%向上させ、年間1,000時間の工数を削減する」と具体的に設定すれば、この目的達成を軸に、一貫性を持って業務プロセスの見直しとRPAシナリオの開発を進めることができます。
このように、導入目的を明確にすることで、RPA導入の優先順位や、投資対効果の判断基準が明らかになります。また、関係者のモチベーションを高め、プロジェクトの推進力を高めることにもつながります。
RPAは、単なるツールの導入ではなく、業務改革の手段です。目的を見失わないように、常に目標を意識しながら、RPA導入を進めていくことが重要だと言えるでしょう。
2. 業務の可視化
RPAの導入効果を最大化するには、現状の業務プロセスを可視化し、自動化の対象を適切に選定することが重要です。業務の可視化を進めることで、RPAの適用可能性や、期待される効果を具体的に評価できるようになります。
業務の可視化には、以下のようなステップが効果的です。
- 業務フローの図式化(フローチャート、業務記述書など)
- 業務の処理時間、頻度、ボリュームなどの定量的な把握
- 例外処理やバリエーションの洗い出し
- 業務の標準化、ルール化の検討
また業務の可視化には、現場の担当者の協力が不可欠です。日々の業務の中で、どのような処理を行っているのか、どんな判断基準で作業しているのかを詳しく聞き取りましょう。可視化の過程で、業務の標準化やルール化の必要性が明らかになることもあります。
業務の可視化は、RPA導入の第一歩であり、導入成功のカギを握る重要なプロセスです。十分な時間と労力を投じ、業務の実態を把握することをおすすめします。
3. 費用対効果の測定基準策定
RPAの導入には、ツールの導入費用だけでなく、開発や運用にも一定のコストがかかります。投資に見合った効果を得るには、費用対効果の測定基準を策定し、定期的に評価することが重要です。
費用対効果の測定基準には、以下のような指標が考えられます。
- 業務処理時間の削減率と削減時間
- 人件費の削減額
- エラー率の低下による業務品質の向上
- 顧客満足度の向上
- 従業員の生産性の向上
費用対効果の評価は、RPA導入の優先順位付けにも活用できます。期待される効果が高い業務から順次自動化を進めることで、投資対効果を最大化することができるでしょう。
例えば、RPAの導入候補業務ごとに期待される効果を定量的に試算し、優先順位付けを行う、という方法があります。効果が高い業務から順次RPAを適用することで、効率的に業務自動化を進めることができます。
また、RPAの費用対効果を適切に評価することは、経営層の理解と支援を得る上でも重要です。定量的なデータを示すことで、RPAへの投資の妥当性を説明しやすくなります。
4. 運用ルールの整備
RPAを安定的に運用するには、明確なルールを定め、関係者で共有することが重要です。運用ルールがないと、トラブル発生時の対応が遅れたり、セキュリティ事故のリスクが高まったりします。
RPAの運用ルールには、以下のような項目が考えられます。
- RPAシナリオの変更管理(変更手順、承認プロセス)
- RPAの実行スケジュールの管理
- 入力データのチェックルール
- エラー発生時の対応手順(エスカレーション先、代替手段)
- アクセス権限の管理(最小権限の原則)
- ログの取得と保存ルール
運用ルールを整備することで、RPAの安定稼働と、トラブル発生時の迅速な対応が可能になります。
また運用ルールは、RPAの導入初期から検討し、文書化しておくことが重要です。また、運用の中で発生した課題や、ルール違反の事例を踏まえて、定期的にルールを見直すことも必要でしょう。
RPAは、業務の自動化を通じて生産性の向上を図るものですが、そのためには安定的な運用が不可欠です。運用ルールを整備し、確実に守っていくことが、RPA導入の成功の鍵を握ると言えるでしょう。
5. ベンダーサポートの活用
RPAの導入では、ツールの選定から、開発、運用まで、専門的な知識が求められます。社内のリソースだけで対応するのは難しいケースも少なくありません。そのため、RPAベンダーが提供するサポートサービスを上手く活用することが、課題解決の鍵となります。
RPAベンダーのサポートサービスには例えば、以下のようなものがあります。
- 導入コンサルティング(現状分析、自動化対象業務の選定)
- RPAシナリオの開発支援
- トレーニングサービス(管理者向け、開発者向け)
- ヘルプデスク(問い合わせ対応、トラブルシューティング)
- 運用サポート(モニタリング、メンテナンス)
RPAベンダーのサポートを活用することで、導入の初期段階から安定的な運用まで、円滑に進めることができます。特に、導入初期は、ベンダーの知見を借りることで、試行錯誤を減らし、スムーズに立ち上げることができるでしょう。
一方で、ベンダーに全てを任せきりにするのは避けたいところです。将来的には自社でRPAを運用していくことを見据えて、ベンダーからノウハウを吸収し、徐々に内製化を進めていくことも重要だと言えます。
RPAの導入は、一社で完結できるものではありません。適切なベンダーを選定し、そのサポートを有効活用しながら、自社の体制を整えていくことが肝要だと言えるでしょう。
6. スモールスタートでの導入
RPAは、業務自動化による大きな効果が期待できる一方で、導入には一定の時間と労力がかかります。いきなり全社的な展開を目指すのではなく、まずは小規模な範囲で試行錯誤を重ねながら、徐々に適用範囲を広げていくことが重要です。
スモールスタートでRPAを導入するには、以下のようなステップが考えられます。
- 自動化の効果が高い業務を1〜2個選定する
- 小規模なチームでシナリオ開発と運用を行う
- 効果検証を行い、課題を洗い出す
- 課題を改善しながら、他の業務に展開する
- 徐々にRPAの適用範囲と体制を拡大する
スモールスタートで導入することで、初期投資を抑えつつ、RPAの効果を実感することができます。また、試行錯誤を通じて、自社に合ったRPAの活用方法を模索することができるでしょう。
一方で、スモールスタートだからと言って、計画性を欠いてはいけません。将来的な展開を見据えて、ツールの選定や、体制の整備を進めることが重要です。
例えばRPAの導入を検討するにあたって、まずは経理部門の2つの業務に絞って、小規模なPoC(概念実証)を行うとします。効果検証の結果、大きな削減効果が見込めることが分かったら、次のステップとして経理部門全体に展開していき、人事部門や営業部門にも適用範囲を拡大していくことができます。
このように、自社でRPAの運用ノウハウを蓄積しながら、段階的に適用範囲を広げていくことが、成功への近道であるといえます。
RPAの課題を乗り越えて業務を改善しよう
本記事では、RPA導入時によくある5つの課題と、それを乗り越えるための解決策について解説しました。
RPAの導入は、単なるツールの導入ではなく、業務改革の取り組みです。現場の業務知識と、RPAの技術的な理解の両方が求められます。また、トップダウンの推進と、ボトムアップの浸透の両輪で進めることが重要だと言えます。
RPAの本当の価値を引き出すには時間と労力が必要です。適切な対策を講じて、業務の生産性向上と、働き方改革を実現していきましょう。
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