今注目のVertical AI Agentとは?保険業界での事例もご紹介!

今、企業が成長を続けるために多くの人が活用しているAIですが、中でも最近注目を集めている「Vertical AI Agent(垂直AIエージェント)」というものをご存じでしょうか?
今回は、そのVertical AI Agentについて、概要や汎用AIとの違い、導入メリット・デメリットや、様々な活用が期待される保険業界での利用例まで、詳しく紹介していきます。

AI Agentとは?

AI Agentは、人間に代わって自律的にタスクを実行できるAIシステムです。自ら周囲の状況を認識し、情報収集、分析、意思決定、行動といった一連のプロセスを自動化できます。AI Agentは、ルールベースの単純なプログラムから、機械学習を用いた高度な学習能力を持つものまで、様々な種類が存在します。

Vertical AI Agentとは?

では、そもそも「Vertical AI Agent」とはどういったものなのでしょうか?
従来の水平型AI Agentとの違いも踏まえ、詳しく解説します。

Vertical AI Agentの定義

「Vertical AI Agent(垂直AIエージェント)」とは、特定の業界や分野に特化して設計されたAIエージェントのことを指しています。
このAIは従来の汎用的なAIとは異なり、特定の分野における専門知識やデータに基づいてトレーニングされており、より高度で効率的にタスクを実行することが可能です。
医療、金融、製造業など、特定の業界に特化したアプリケーションのような存在のため、様々な業界での活躍が期待されています。

従来のHorizontal(水平型)AI Agentとの違い

それでは、水平型AIとVertical AI Agentは具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。
水平型AIは多様なタスクに対応できる柔軟性を持っていますが、特定の業界、業務分野における深い専門知識を必要とする場合、対応しきれないケースも存在します。
それぞれ比較すると、その目的や得意とする分野などがわかりやすいかもしれません。

  • Horizontal AI Agent:水平型AI Agentとは、人間のように幅広いタスクに対応できる汎用性の高いAI Agentを指しています。特定の分野には特化せず、様々な種類の問題解決や情報処理に対応できるように設計されており、文章生成、画像認識、一般的な質問応答などが可能です。
  • Vertical AI Agent:特定の業界や業務に特化したAI Agentを指しています。例えば、患者の診断支援をする医療業界に特化したAI Agentや、金融商品のリスク管理をする金融業界に特化したAIなどが挙げられます。

上記のようにVertical AI Agentは特定の業務に最適化された所謂「専用ツール」であり、水平型AIよりも特定のタスクにおいて高い精度を発揮することができます。関連性の高いデータに特化して学習している点はもちろん、Vertical AI Agentは、個別に開発するなどカスタマイズ性が非常に高いため、企業の個別のニーズに合わせてカスタマイズすることができるという点もその理由の一つです。

それぞれの特徴を表にまとめてみましたので、ぜひ比較してみてください。

Vertical AI AgentHorizontal AI Agent
対応範囲特定の業界・分野幅広い分野
対応精度特定のタスクにおいて高精度幅広いタスクにおいて平均的な精度
扱うデータ特定業界のデータに特化広範囲のデータ
用途専門的な課題解決、業務効率化一般的なタスク、情報検索など
医療診断AI、金融リスク管理AIなど大規模言語モデル(LLM)など

△Vertical AI Agentと水平型AI Agentの比較表

保険業界での活用が有効な理由

これまでの解説でVertical AI Agentについて大枠ご理解いただけたかもしれませんが、ここからは、特に有効と考えられている保険業界での活用についてをご紹介します。
まずこの章では、保険業界でのVertical AI Agent活用にどのような背景があるのか、詳しく解説していきます。

複雑性を増す保険商品

保険商品は、顧客のライフステージやニーズの多様化に伴い、高度化・複雑化が進んでいます。生命保険、医療保険、火災保険、自動車保険といった基本的な商品カテゴリーに加え、近年ではサイバー保険、ペット保険、旅行保険など、対象とするリスクや保障内容が多様な商品が次々と登場しています。

さらに、各商品には様々な特約やオプションが付帯しており、顧客は自身の状況に合わせて最適な組み合わせを選択する必要があります。この選択プロセスは、保険商品の専門知識がない顧客にとっては非常に難解ですし、適切なアドバイスを提供できる人材の育成・確保は保険会社にとっても重要な課題です。

そのため、Vertical AI Agentを活用し、人間の専門家をサポートし、提案の質を高めることが期待されています。これによって顧客への適切なアドバイス提供はもちろん、コンプライアンス遵守の徹底、業務品質の向上も期待できます。

データ分析の高度化

保険業界は、顧客情報、契約情報、事故情報、市場動向など、膨大なデータを保有しています。これらのデータは、リスク評価の精度向上、不正請求の検知、新商品開発、マーケティング戦略策定など、ビジネス上において様々なメリットをもたらします。
しかし、これらのデータを有効活用するには、高度なデータ分析技術だけでなく、保険に関する専門知識も必要です。例えば、過去の事故データを分析する際には、事故の種類、発生場所、原因などの情報だけでなく、保険商品の種類や保障内容、関連する法律や規制なども考慮する必要があります。

上記の理由から、Vertical AI Agentには、専門知識と高度なデータ分析技術を組み合わせることで、従来のAIでは難しかった高度な分析を可能にすることが期待されています。これにより、より精度の高いリスク評価や、より効果的な不正請求検知などが実現し、企業の収益性向上も可能となるかもしれません。

業務効率化の課題

保険業界では、顧客対応、契約手続き、保険金請求手続きなど、多くの定型業務が存在します。これらの業務は、従業員の負担が大きく、時間とコストもかかるため、業務効率化が強く望まれている部分です。

そこで、専門性の高いVertical AI Agentを導入することで、これらの定型業務を自動化し、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになることが期待されています。具体的には、顧客からの問い合わせ対応や、保険契約の審査、保険金請求の受付と初期審査などの業務を自動化できると考えられています。

Vertical AI Agentの活用により、従業員の業務負担を軽減しつつ、顧客対応の迅速化による顧客満足度の向上も期待できるでしょう。

Vertical AI Agent導入のメリット

このように保険業界において活躍が期待されているVertical AI Agentですが、保険業界以外にはどういった業界で活躍ができるでしょうか?
Vertical AI Agentを導入したことで得られるであろうメリットをいくつかご紹介しますので、自社において活用できるポイントがあるかどうか、ぜひ検討してみてください。

専門性の高い問題解決が可能

Vertical AI Agentは特定の業界のデータと知識に特化して学習しているため、汎用AIでは対応が難しいような専門性の高い問題に対して、より適切な解決策を提供できます。
例えば、医療分野におけるVertical AI Agentは、過去の症例データや最新の研究論文に基づいて、医師の診断を支援したり、最適な治療計画を提案したりすることが可能です。
これは、汎用AIでは実現が難しい、高度な専門知識を活用した問題解決と言えるでしょう。

業務効率の大幅向上

Vertical AI Agentは反復的なタスクやデータ分析などを自動化することで、業務効率を大幅に向上させることができます。
例えば、金融分野におけるVertical AI Agentなら、過去の取引データに基づいて自動で不正取引を検知したり、リスクを評価したりすることができます。これにより、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになり、企業の生産性向上に貢献します。

顧客体験の向上

Vertical AI Agentは、顧客のニーズに合わせたパーソナライズされたサービス提供や、迅速な対応を可能にし、顧客満足度向上に貢献します。
例えば、顧客の属性情報や過去の行動履歴などを分析し、個々の顧客に最適な商品やサービスを提案したりすることもできますし、Vertical AI Agentであれば24時間365日いつでも問い合わせの対応が可能になります。
これにより、顧客の満足度を向上させることができるとともに、従業員の業務効率化にも貢献することが期待されます。

Vertical AI Agentの保険業界における活用事例

では、Vertical AI Agentは具体的にどのような業務に変革をもたらすのでしょうか。
先ほどご紹介した保険業界において、考えられる活用事例をいくつかご紹介していきます。

保険金請求査定の自動化

保険金請求査定は保険会社にとって重要な業務の一つですが、請求書類の確認、過去のデータとの照合、不正請求の疑いがないかの調査など、非常に多くのステップを要するため、どうしても時間とコストがかかります。その点、Vertical AI Agentであれば、過去の請求データ、医療情報、事故状況などのデータを学習し、請求内容を自動的に分析することで、査定プロセスの大幅な効率化と迅速化の実現が可能です。

例えば、請求書類の画像認識、テキストデータ抽出、データ項目間の関連性分析などを自動化することで不備や矛盾点の検出も行えますし、過去の不正請求パターンを学習したAIモデルであれば高い精度で疑わしい請求を検知できます。また、保険金支払いのプロセスを自動化することで、迅速な保険金の支払いへ繋がり、顧客の満足度向上へも貢献できます。

参考:富士通とSAP Fioneer、保険業界のDXを加速し、お客さまの持続可能なビジネスに貢献するサービスの提供に向けたパートナーシップを締結

顧客対応の自動化

顧客からの問い合わせ対応は、時間帯や問い合わせ内容によって顧客を待たせてしまうケースもあります。
ですが、Vertical AI Agentを活用したAIチャットボットであれば、24時間365日、顧客からの問い合わせに自動で対応し、迅速かつ適切な情報提供が可能です。

例えば、よくある質問への自動回答を学習させておけば顧客は待ち時間なく必要な情報を入手できますし、複雑な問い合わせへの対応であれば顧客の質問を正確に理解した後、必要に応じて適切な担当者へ引き継ぐことも行えます。また、顧客の契約内容や問い合わせ履歴などを考慮した上で、パーソナライズされた情報の提供も行えるため、問い合わせ対応の効率化と顧客満足度の向上と、どちらも実現することが可能になります。

参考:三井住友海上火災保険株式会社:対話型AIを活用した事故対応サービスの品質向上取組を開始

リスク評価の精度を向上

保険料の設定や引受判断を行う際、リスク評価が不可欠です。とても重要な業務の一つですが、Vertical AI Agentの活用により、過去のデータと最新の情報を組み合わせ、より正確なリスク評価を行うことで、適切な保険料の設定やリスク管理が実現できます。

例えば、過去の事故データや気象データ、地理情報、顧客の属性情報など、様々なデータを統合的に分析することも可能ですし、それらを踏まえて機械学習モデルを活用し将来の事故発生確率や損害額の予想も可能となります。

AIにおける信頼性の確保という点は依然として課題として残りますが、AI技術のさらなる発展により、様々な業務の改善に貢献することが期待されます。

参考:損保ジャパン:AIの信頼性確保に向けた大規模言語モデルのリスク評価と全社的なガバナンス体制の構築

Vertical AI Agent導入において、考慮するべき課題とリスク

このように非常に革新的なVertical AI Agentですが、導入においては様々な考慮すべきポイントが存在します。
課題やリスクについても正しく理解することで、自社で問題なく活用できるかどうかを見極めることができるかもしれません。いくつか紹介していきます。

導入・開発コストと専門知識の必要性

Vertical AI Agentは特定の分野に特化するために、Horizontal AI Agentに比べて追加の開発や導入に高いコストがかかるケースがあります。
特に、自社独自のデータセットを用いてAIモデルをトレーニングする場合、データの収集、整理、アノテーション(ラベル付け)などに多大な時間と労力、そして専門知識が必要となります。
また、既存のVertical AI Agentソリューションを導入する場合でも、自社の業務プロセスに合わせてカスタマイズする必要がある場合が多く、そのための専門人材の確保や外部ベンダーとの連携が必要になることがあります。これは、特に中小企業にとっては高いハードルとなり得る可能性が高いです。

変化への対応とメンテナンスの継続性

どの業界も状況は常に変化しているため、Vertical AI Agentもその変化に合わせてアップデートしていく必要があります。
特に、法規制の変更や技術革新などの大きな変化があった場合には、AIの再トレーニングやアルゴリズムの調整が必要となると想定できます。このメンテナンスを怠ると、AIの精度が低下したり、時代遅れの情報に基づいて判断を下してしまう可能性があります。
また、Vertical AI Agentは特定のタスクに特化しているため、想定外の状況や変化には柔軟に対応できないケースも考えられます。この点においては、Horizontal AI Agentと比較した場合、適応性に劣ると言えるでしょう。

説明責任と倫理的な課題

Vertical AI Agentが複雑な判断を行う場合、その判断根拠を人間が理解するのが難しい場合があります。
これはVertical AI Agentに限った問題ではありませんが、通称「ブラックボックス問題」と呼ばれ、AIの透明性や説明責任の観点から問題視されています。特に医療や金融など、人命や財産に大きく関わる分野においては、AIの判断根拠を明確に説明できることが非常に重要です。
また、AIの学習データに偏りがあった場合、差別や偏見を助長するような結果を生み出す可能性もあり、倫理的な観点からも注意が必要とされています。

プライバシーとセキュリティに関するリスク

Vertical AI Agentはその性質上、多くの場合、機密性の高いデータ(顧客情報、財務情報、医療情報など)を扱うため、プライバシーとセキュリティに関するリスクが伴います。そのため、データの収集、保存、利用、共有の各段階において、適切なセキュリティ対策を講じなければ、情報漏洩や不正アクセスのリスクが高まる可能性があります。特に、GDPR(一般データ保護規則)などのデータ保護規制が厳格化している現代においては、これらのリスクへの対応は企業にとって重要な課題となるでしょう。

また、AIモデル自体が攻撃対象となる可能性も考慮する必要があります。例えば敵対的攻撃(Adversarial Attack) * と呼ばれる手法で、AIの判断を誤らせるような入力データが作成されてしまう可能性もあります。
Vertical AI Agentの導入において、企業はこういった課題に対して適切に対処をしていく必要があるでしょう。

課題とリスクを考慮しつつ、導入を成功させるには

上記のように考慮すべき点もあるVertical AI Agentのため、企業はそれらを克服し、その可能性を最大限に引き出せるよう、段階的なアプローチと適切な対策を講じなければなりません。
ここからは、考えられる対策についていくつか紹介していきます。

スモールスタートと外部リソースの活用

Vertical AI Agent導入におけるコストや専門知識不足については、スモールスタートと外部ベンダーの活用で解決可能です。
まず、全社的な大規模展開ではなく、特定の業務プロセスに絞ったPoC(概念実証)を実施し、導入効果を検証することで初期リスクを抑えられます。また、専門知識が不足している場合には、AI開発ベンダーやコンサルタントとの連携が有効です。外部リソースの活用により、迅速な導入が可能になるだけでなく、将来的な内製化を目指した知識移転も進めることができるでしょう。

継続的なモニタリングとアップデート体制の構築

Vertical AI Agentを長期的に運用するためには、変化への対応とメンテナンス体制が重要です。導入後も継続的にパフォーマンスを監視し、データドリフトを防ぐための定期的なデータ更新やAIの再トレーニングを行う必要があります。
また、こうしたメンテナンス体制を整えるためには、社内に専門チームを設置したり、外部ベンダーと保守契約を結ぶなど、変化に強い運用体制を確率する必要があります。LLMを活用したAI Agent の開発の提案を受ける際には、LLMの出力の評価、プライバシー、ログの分析など継続的な運用が考慮されているかも開発会社を選定する上で重要なポイントになります。

透明性と倫理性を担保するガイドラインの策定

Vertical AI Agentの活用において説明責任を果たすためには、XAI(説明可能なAI)*の導入が有効です。この技術を活用することで、Vertical AI Agentの判断プロセスを可視化し、透明性を高めることができるでしょう。
また、AIの利用に伴う倫理的リスクを防ぐためには、データ収集や意思決定に関する倫理ガイドラインを策定することが重要です。このガイドラインは社内外の専門家の協力を得て多角的に検討することで、より実効性の高い内容になります。

プライバシーとセキュリティを守る対策

Vertical AI Agentが取り扱うデータの機密性を保つには、情報漏洩や不正アクセスへの対策が不可欠となります。
データ暗号化やアクセス制御などを徹底し情報漏洩を防ぐとともに、プライバシーポリシーを明確化し周知することで、データプライバシー侵害リスクを軽減できます。
さらに、データガバナンス体制を整え、データのライフサイクル全体を管理することで、運用リスクを最小限に抑えることができるでしょう。

Vertical AI Agentの今後の展望

ここまで、Vertical AI Agentの活用について解説してまいりました。

Vertical AI Agentは、2025年以降にさらに重要な役割を果たすと予測されています。AI技術の進化とデジタル化の加速により、医療分野では診断支援や治療計画の自動化が進み、より最適な治療提案が現実となるかもしれませんし、金融分野ではリスク管理や資産運用における高度な分析が可能となり、従業員の負担を大幅に削減できる未来もあるかもしれません。
また、今回の記事でご紹介したように、保険業界では、Vertical AI Agentが契約審査や顧客対応の迅速化に寄与すると考えられています。例えば、顧客データを分析して、個々のライフスタイルに適した保険商品を提案するなど、よりパーソナライズされたサービスの実現がすでに様々な企業で目指されています。

Vertical AI Agentの成功は、その技術をいかに効果的に活用し、既存の業務プロセスへ統合できるかどうかが重要です。今後も新たなイノベーションとともに、私たちのビジネスや生活自体に大きな影響を与えると考えられます。

まとめ

Vertical AI Agentは、ビジネスの効率化、顧客体験の向上、リスク管理の高度化など、多くの可能性を秘めた技術です。特に、専門知識の活用という観点から、従来のAIでは対応できなかった高度な業務を効率的に実行できる点が大きな強みです。

しかし、導入にあたっては、導入コスト、データ整備、倫理的な課題やセキュリティリスクなど、考慮すべき点も多く存在します。企業は、これらのメリットや課題を十分に理解した上で、自社のビジネス環境や課題と照らし合わせ、Vertical AI Agentの導入を慎重に検討する必要があるでしょう。

Vertical AI Agentは、まだ発展途上の技術ではありますが、今後の進化と社会への影響には大きな期待が寄せられています。技術革新のスピードを考慮すると、数年後には現在の想像をはるかに超える活用が広がっているかもしれません。
今後のVertical AI Agentの進化とビジネス社会への影響に期待するとともに、責任ある活用を推進できるよう、最新情報へ注視していく必要がありますね。

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この記事を書いた人

Yuri Yamamoto
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