近年、企業のコンプライアンスはますます重視されるようになってきました。その中でもとりわけ、反社会的勢力の排除は社会的な信用を維持していく上で不可欠な活動になっています。反社会的勢力との取引や繋がりが発覚すると取引先から取引を停止され、倒産に追い込まれることもあります。実際、2021年に九州の設備工事会社が反社との取引が発覚した後に倒産する事例がありました。
では、反社会的勢力をどうやって見分けたら良いのでしょうか?そのようなリストやデータベースがあるのでしょうか?
残念ながら、反社会的勢力の実名などを網羅的にかつ新鮮な形でまとめているリストやデータベースで、一般企業が容易にアクセスできるものは存在しません。いくつかのデータソースからの断片的な情報や、限られた確定的な情報を基に見分けていくしかないのです。
とはいえ、過去の取引履歴や事件歴などを基に、各業界団体や調査会社が独自にまとめているリストは存在しています。
この記事は、今から反社チェックを導入しようとしている会社の責任者、担当者の方、既に反社チェックを行なっているがやり方があっているのか気になっている責任者、担当者の方向けに、反社チェックで使うデータソースや調査方法を紹介しています。
最後まで読んでいただけたら反社チェックの方法の基本がわかるようになります。
なお、本記事は弁護士監修のもと制作されています。
この記事の監修弁護士
弁護士 高橋知洋
AZX総合法律事務所 パートナー弁護士
2011年弁護士登録、
2014年AZX総合法律事務所入所、2019年から現職。
弁護士 柳沢優帆
AZX総合法律事務所 アソシエイト弁護士
2020年弁護士登録、2021年AZX総合法律事務所入所、同年から現職。
目次
反社会的勢力のリストの確認方法
反社会的勢力のリストを持っている組織はあるのでしょうか。冒頭で述べた通り、反社会的勢力が定義困難なため、リストを持っている組織を定めるのも困難になります。ですが、ある程度確定的な情報に基づいたリストを持っているところはあります。
警視庁
繰り返しになりますが、警察は、暴力団員のリストを持っています。一般の企業は、そのリストにアクセスすることはできませんが、金融機関などはリストへのアクセスが許されています。
また、一般企業であってもリスクが高いと判断し、氏名、生年月日、住所などがわかれば警察に照会することができます。
専門調査会社や業界団体
専門の調査会社や業界団体も独自のリストを持っていることがあります。金融や不動産関連の業界団体は、特に取引のリスクが高いので独自にリストを持っています。調査会社であれば、例えば、SPネットワークや日本信用情報サービスなどは公知の情報の他に、独自に収集したデータベースを持っています。
リスクが高いと感じたら、専門調査会社や業界団体への問い合わせも検討してみてください。
反社会的勢力の定義
これまで、取引先が反社会的勢力かどうかを調査する方法に関して述べてきましたが、そもそも反社会勢力とはどのように定義されるのでしょうか。もし定義可能であれば、特定も可能なはずなので、定義について確認していきましょう。
反社会的勢力とは何か
Wikipedia では、反社会勢力について以下のように説明されています。
引用> 反社会的勢力とは、暴力や威力、または詐欺的手法を駆使した不当な要求行為により経済的利益を追求する集団又は個人の総称である。暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団、半グレ集団などの犯罪組織およびその関係者たちを広く呼び、反社と略される。
この説明によると、反社会的な行為をもとに総称として語られるものになっています。つまり、企業属性やプロフィールから反社会的勢力と特定されたりするものではなく、そのような行為を行うもの全てが反社会的勢力と呼ばれることになります。
行為をもとに特定されるということは、過去にそのような行為をしたのかが、主な問いになります。また、行為をもとに特定されるということは、ホワイトだった取引先が、悪事に手を出したり、乗っ取られたりして、いつの間にか反社会的勢力になっているという可能性も十分にあり得るのです。
東京都暴力団排除条例の定義
東京都の暴力団排除条例での定義を見ていきましょう。東京都の暴力団排除条例では、「反社会的勢力」ではなく「規制対象者」という呼び方になっており、暴力団員を主な規制対象として、暴力団と密接に交際したり、取引をする人も規制対象に含まれます。
引用> 「規制対象者」とは、第24条において、事業者による利益供与を禁止する対象として規定されている者で、「暴力団員」のほか、例えば、「暴対法に基づく中止命令等を受けた日から3年が経過していない者」や、この第24条の規定に違反する利益供与をして「勧告」を受けたにもかかわらず、さらに同種の利益供与をして「公表」をされた事業者など、正に「暴力団ともちつもたれつの関係にある者」がこれに当たります。(第2条第5号イからチまで)
*条文ママですとわかりにくいので、Q&Aページからの引用にしています。
この定義の場合は、暴力団員という警察が確定的に持っている情報を基に幅広く定義しているので、反社会的勢力とは異なる性格のものになっています。
反社チェックが必要な理由
ここからは、なぜ反社チェックが必要なのかをおさらいしたいと思います。
企業のコンプライアンス・社会的責任を果たすため
まずは、企業がコンプライアンスと社会的責任を果たすために重要です。反社会的勢力と取引することは、犯罪行為を助長し、その資金源や活動資源を提供することになります。上場基準でも反社チェックは必要なものとされています。
不当要求やトラブルに巻き込まれるのを防ぐため
また、自社を守るためにも反社チェックは重要です。例えば、反社会的勢力と取引をしてしまうと、クレームや不当な要求で会社の財政を圧迫したり、従業員の安全が脅かされる危険性もあります。こういったリスクから企業を守るためにも反社チェックは重要です。
近年では、反社チェックをしていない企業とは取引をしない企業もあります。。取引先だけではなく、取引先の取引先までチェックする企業もあるくらいです。反社チェックはそれだけ重要視され、注目されている分野でもあります。
暴排条例、政府指針で求められているため
東京都暴力団排除条例などでは規制対象者(暴力団員、暴力団員と関係のある人)と取引をしないように条例で定められています。一般に暴排条例と略称で呼ばれています。この条例を守るためには、反社チェックをするほかありませんし、チェックできなかったとしても契約書類に反社会的勢力ではないことの表明保証を入れることが一般的になっています。
反社会的勢力を見分ける7つの方法
反社会的勢力を見分ける方法を以下に7つ紹介します。
調査方法を比較する観点としては、
- 情報の網羅性
- 情報の信頼性
- 情報の鮮度
- 情報の検索のしやすさなどがあります。
それぞれの方法に良し悪しがありますので、特徴を理解した上で複数の方法を組み合わせるのが必要になります。
どの方法を活用するにしても、調査をした証拠を残しておくことも信用を担保する上で非常に重要です。
インターネット検索
Googleなどの検索エンジンを活用したインターネット検索は、無料かつ新鮮な情報を集めるために有効な方法です。インターネット上の記事を検索し、時には、掲示板、ブログやSNSなどの噂レベルの情報にも目を光らせる必要があります。
インターネット検索による反社チェックの利点としては、噂レベルの情報まで網羅して調査が可能であることや、常に最新の情報を収集することができること、また、近年の検索エンジンの検索精度の向上や検索条件の詳細設定により見つけたい情報がより上位に表示されるようになってきたことが挙げられます。
逆にインターネット検索による調査の欠点としては、噂レベルの情報もあり情報の信頼性の確認や、調査対象と記事に書かれている対象が同じかを確認する同一性の検証に一定の手間や時間がかかってしまうこと、古い情報は検索順位の低い方に追いやられてしまうこと、逆SEOなどの検索に出にくくする対抗手段もあることが挙げられます。
検索順位の低い方に隠れてしまう情報も逃さないようにするには、少なくとも検索結果の10ページ目まで確認した方が良いでしょう。
このように、膨大な情報からホワイト認定(反社会的勢力ではないと認定)することが求められるため相当量の時間がかかってしまいます。
そもそも検索エンジンは、反社会的勢力を発見するためのツールではないと理解した上で活用する必要があります。
Google検索を用いて反社チェックを行う手順はこちらの記事に詳しくまとめています。
新聞記事データの検索
新聞記事データの検索は、インターネット検索の弱点を補う上で有効です。新聞記事データベースは、新聞記事や雑誌という限られたデータソースを検索し、比較的正確性の高い情報源を基に調査することができます。
新聞記事データ検索による調査の利点は、古い情報でもデータベース上で検索しやすくなっていることです。また、情報の信頼性についてもインターネット検索に比べると格段に信頼できるものといえます。
一方で、新聞記事データの検索の欠点は、噂レベルの情報や知る人ぞ知る情報などは網羅していないことです。また、古い情報を検索したい場合、会社名が変わっていれば、古い会社名で検索しなければなりません。
さらに近年では、事件関係者の個人名を公開しないケースも出てきているので、新聞記事データベースの掲載される情報に限界が出てきています。またそれほど料金は高くはないものの、記事検索の利用が有料であることも欠点の一つとして挙げられます。
新聞記事データの検索も、本来は反社会的勢力を発見するためのツールではないと理解して利用する必要があります。
反社会的勢力情報データベースでの検索
インターネット検索や新聞記事データ検索は、世間に公にされている情報源といえます。これらの情報に加え、警察の事件情報や独自の調査情報を基にデータベースを構築している一般企業もあります。
例えば、SPネットワーク社や日本信用情報サービス社で提供しているデータベースは、公知の情報の他に、独自に収集した情報のデータベースを構築しています。
参考:
SPネットワーク社
https://www.sp-network.co.jp/trouble/trouble_categories/sp-risk-search
日本信用情報サービス社
https://jcis.co.jp/search/
これらの情報源を使う利点は、専門家によるスクリーニングが実施されており情報の信頼性が高いことです。
それでも、反社会的勢力情報データベースにもデータの網羅性、鮮度については一定の限界があります。そのため、インターネット検索も組み合わせて補うことも有効です。
反社チェックツールの利用
反社会的勢力排除のための活動が注目される中で、反社チェックのための専用ツールも出てきました。反社チェックツールは、一般にはインターネット検索や新聞記事検索などの公知の情報の収集を自動化し、まとめて管理することができるようになっているツールです。
ツールによっては、記事を読み込んでリスクの高低を判定したり、情報源をカスタマイズしたりすることが可能です。
反社チェックツールの利点は、反社チェックが自動化されて手間が大きく削減できるところにあります。
一方で、ツールによっては情報源がカスタマイズできず自社の基準を満たさなかったり、記事のリスク判定がないために情報を読み込む手間が削減できなかったりすることもあるので、どこを重視するかで選ぶツールが変わってきます。
業界団体への問い合わせ
業界団体への問い合わせも有効な調査方法です。業界団体とは、〇〇協会のような同じ業界の企業が作っている協会のことです。このような協会には、会社に対するクレームや問題を起こした企業などの情報が集まるようになっています。協会に問い合わせることにより協会が把握している情報を基に企業を照会することができる可能性があります。
業界団体への問い合わせの利点は、問い合わせ自体を無料で受け付けていたり、業界内でしか知られていない事実も把握していたりするので、より直接的な情報を得ることができます。不動産業界、金融業界は特に反社会的勢力に敏感なので独自の情報をデータベース化しているところも多いです。
業界団体への問い合わせの欠点は、そもそも問い合わせることがかなりの手間ということ、業界団体が多い場合どこに問い合わせるべきか判断が難しいこと、業界団体でも把握していない事実はもちろんわからないことが挙げられます。
専門調査会社への調査依頼
反社会的勢力の調査を行う調査会社を利用する方法もあります。この方法は、プロに調査を任せ、反社会的勢力とみなし取引をするかどうかの最終判断のみ自社で判断するという方法になります。
この方法の利点は、そのままお任せできる点と、調査会社独自のデータベースや追加の人的な調査を組み合わせるので精度の高いリスク判定ができる点にあります。
欠点は、やはり一件の調査にそれなりの費用がかかりますので、全ての取引先をチェックするというのは現実的ではないでしょう。取引のリスク度合い、重要度を総合的に見て、一部の調査対象に導入するというのが良いかもしれません。
警察・暴力団追放センターへの相談
冒頭で、反社会的勢力の網羅的かつ確定的なデータベースは無いと申し上げましたが、警察は、指定暴力団に関する確定的なデータベースを持っています。
参考:
指定暴力団の一覧表
https://www.police.pref.osaka.lg.jp/seikatsu/boryokudan/6857.html
このデータベースは、一般企業はアクセスできません。しかし、危険度が高いと認識した場合は、住所や氏名、生年月日など取引先を特定する情報があれば警察や暴力団追放センターへ相談ができます。ここで確定的な情報が得られれば、取引の停止などの仲介も相談可能です。
警察への照会は、情報がある程度集まった段階で相談するもので、気軽に利用できるものではないので、他の方法による事前調査は必須となります。
【実践編】反社チェック実施における注意点
反社チェックの方法や反社会的勢力の定義、反社チェックの重要性を述べてきました。実践編として、弊社で有している反社チェック自動化の事例から、反社チェックのベストプラクティスのための注意点をご紹介します。
複数のチェック方法を組み合わせる
反社会的勢力を見分ける7つの方法でご紹介したように、それぞれの調査方法に利点と欠点があります。一つの観点だけでチェックするのではなく、情報源の特性を理解した上で欠点を補い合う形で運用するのが重要です。
例えば、公知情報を基に調査する場合は、網羅的な情報を調べるためにインターネット検索の10ページ目までを調査することに加え、新聞記事データベースでも調査して、雑音の無い結果や古い情報まで調査することが重要です。
さらに、企業の基準次第で、帝国データバンクなどの調査機関の情報、リスクが高いと判定されれば専門の調査機関への調査の依頼も視野に入れてみてください。
情報の鮮度を意識する
過去にホワイトだった取引先がいつの間にか反社会的勢力になっているということも考慮しなければなりません。インターネット検索で新しい情報を検索し、過去に行なった調査も一年毎、できれば半年毎に情報を更新していき取引先にコンプライアンス違反が無いかを調査しましょう。
反社チェックを実施する頻度については、こちらの記事で詳しくまとめています。
近年、フリーランスや副業での個人事業主として活動している人も増えました。個人事業主は公知情報がかなり限定されています。個人を相手にする場合は、本人確認を厳格化し、マイナンバーの提出を徹底しましょう。
反社チェックに使えるツール
手前味噌ですが、このような反社チェックを自社の基準に合わせて柔軟に構築し、完全に自動化するツールである「AUTORO反社チェック」についてご紹介します。
AUTORO反社チェックとは?
AUTORO 反社チェックとは、Web Auto Robot の AUTORO を活用した反社チェックの自動化ツールです。独自のデータベースは持っていませんが、さまざまな企業のニーズや基準に合わせて柔軟に反社チェック自動化を構築できます。
一般的な構成では、公知情報で新聞記事データベース(お客様で契約、弊社でご紹介可能です)の検索と、記事リスク判定付きのインターネット検索を行います。ご希望に合わせて、企業データベースでの与信の調査も自動化することができます。
また、CRMや取引先マスターとの連携も自動で行いますので、調査結果の確認と取引承認すること以外は全て自動化可能です。
AUTORO反社チェックの3つの利点
AUTORO 反社チェックの利点はズバリこの3つです。
- CRMや取引先マスターとの自動連携により調査待ち時間を削減
- リスク判定付きのインターネット検索で確認時間を削減
- 自社の基準に合わせたカスタマイズが可能なので、複雑な調査も自動化可能
興味のある方は、ぜひお問合せください。
Web Auto Robotの「AUTORO」で業務自動化
AUTOROの製品紹介資料を無料でダウンロードいただけます。
製品の特徴や導入のメリット、ご活用事例などをご紹介しています。
反社会的勢力のリスト以外の方法でも反社チェックは可能
反社会的勢力とは何か、どこにそのリストがあるのか、どうやって反社会的勢力と取引しないようにするかについて述べてきました。
企業のコンプライアンスが求められ、社会がますますホワイトニングされていく昨今、どんな企業でも反社チェックを行う必要があります。一度調査した取引先がいつの間にか反社会的勢力になっているというリスクもあり、継続して調査する必要があります。
さまざまな反社チェックの方法からリスク度合いにより、自動化するのか、専門機関に依頼するのかなど自社にあった調査方法を選定することが大切です。最後までご覧いただきありがとうございました。